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公平なシフトとは何か。「全員を平等に」がいちばん不公平になる理由を、数字で考える

締め日が近づいてきて、シフト表をながめる。「今月、あの人は入りが少ないな。じゃあ何コマか足しておくか」。多くの店長が、良かれと思ってこれをやっています。

けれど、この「良かれ」が、実はお店のお金と、いちばん頼れるスタッフの両方を静かにすり減らしていることがあります。この記事では、「公平なシフト」とは何なのかを、感覚ではなく数字で分解してみます。あわせて、多くのお店で毎月起きている落とし穴と、その抜け方まで整理します。

「公平=全員同じ回数」は、なぜ間違いなのか

公平なシフトと聞くと、まず「全員を同じ回数にすること」を思い浮かべます。ですが、これは公平の入口としては危うい考え方です。

スタッフはひとりずつ、入れる曜日も、入れる回数の上限も、担当できるポジションも違います。この状態で回数だけをそろえようとすると、しわ寄せは決まったところに向かいます。いちばん融通が利く人ほど、数合わせの「調整弁」に使われるからです。「この枠、誰も入れないな。あの人なら頼めば入ってくれる」——こうして、頼みやすい人にばかり不規則な穴埋めが集中していく。回数という数字の上では平等になっているのに、実際にいちばん無理をしているのはその人、という逆転が起きます。

つまり、均等割りは公平の答えではなく、むしろ新しい不公平の入口になり得ます。

そもそも「公平」は測れるのか

感覚で「かたよってる気がする」と言っても、話は前に進みません。まず、公平を数字で置いてみます。

いちばん簡単な指標は、勤務回数がもっとも多い人と、もっとも少ない人の差です。これを

かたより幅 = 最多の人の回数 − 最少の人の回数

と置くと、この幅が大きいほど機会がかたよっている、という当たり前のことが、はじめて数字として見えます。目標は、この幅をゼロにすることではありません(前の章のとおり、無理にゼロへ寄せると別のひずみが出ます)。それぞれの制約のなかで到達できる、いちばん小さい幅に近づけることです。Shiftory がダッシュボードで「最多と最少の差」を表示しているのも、まずこの幅を見えるようにするためです。測れないものは、直しようがありません。

「みんなが納得するシフト」を定義してみる

もう一歩、定義を深めます。公平を分ける学問には、「ねたみのない配分(envy-free)」という考え方があります。ケーキを何人で不満なく切り分けるにはどうするか、という古くからの問いの系譜にある概念です。

これをシフトに当てはめると、とてもわかりやすい基準になります。全員が「他の誰かのシフトと交換したいとは思わない」と感じられる状態。これが、ねたみのないシフトです。自分の割り当てを見て「あの人のほうがいい思いをしている」と感じる人がひとりもいない。回数がぴったり同じでなくても、それぞれが「自分のこれが一番マシだ」と思えるなら、そのシフトは公平に近い。良い公平とは、数字の一致ではなく、この納得のことです。

なぜ、人間の手ではそこに届かないのか

では、その納得のいく一枚を、手作業で引き当てられるでしょうか。ここで組み合わせの大きさを見てみます。

かなり単純化して、ある1日のシフトの組み方が仮に20通りあるとします。これが30日分あると、ひと月のシフトのパターンは 20 × 20 × … と30回かけ合わさって、20 の30乗 ≒ 1 のあとに 0 が39個並ぶ数になります。実際には勤務条件などの制約がかかるので、この全部が使えるわけではありません。それでも桁の感覚として、選択肢は天文学的です。

この中から、かたより幅が小さく、しかも全員が納得する一枚を、勘で引き当てる。それはもう、実力ではなく宝くじに近い作業です。手作業のシフトがなかなかしっくりこないのは、店長の能力の問題ではなく、そもそも人間の頭が持てる量を超えているからです。

公平・充足・希望・コストは、同時には立たない

もうひとつ、大事な現実があります。シフトには、同時に満たしたい目標が複数あります。公平(かたよらせない)、充足(必要な時間帯に穴を開けない)、希望(本人の出したい・休みたいを尊重する)、そしてコスト(余計な人件費をかけない)。

この4つは、どれかを強く立てると、どこかが引っ込む関係にあります。公平を最優先すれば希望とぶつかることがあり、希望を通しすぎれば穴が開き、穴を埋めきろうとすれば人件費が上がる。全部を最大にする万能の正解は、数学的に存在しません。だから現実のシフトづくりは「どれかを選ぶ」ではなく、「4つのバランスをどこで取るか」という調整になります。この視点を持たないまま公平だけを追いかけると、次のような落とし穴にはまります。

締め日前の「駆け込み投入」という落とし穴

いちばん起きがちなのが、これです。締め日までに回数をそろえようとして、期末に人を余分に入れてしまう。冒頭の「入りが少ないから何コマか足しておくか」が、まさにこれです。

この行動の正体は、予算の期末消化とまったく同じ構造です。「使い切らないと来期の枠が削られる」からと年度末に不要な備品を買う——あれと同じで、「今月この人の回数が少ないから」と、暇な時間帯にシフトをねじ込む。決めているのは需要ではなく、帳尻合わせです。その瞬間、公平性という数字は改善しますが、人件費という別の数字が悪化します。指標を立てるために、経営を痛めている。本末転倒です。

しかも厄介なのは、これが一部のお店に限った話ではなく、締め日という区切りを持つ多くのお店で、毎月ふつうに起きているということです。悪気はまったくなく、むしろ真面目に公平を守ろうとするほど、この駆け込みに追い込まれます。

公平性は「その月で清算するもの」ではない

なぜ駆け込みが起きるのか。答えははっきりしています。公平性を、締め日でゼロに戻る月次のノルマだと思っているからです。今月中に回数をそろえないと不公平が確定する、と感じるから、無理をしてでも期末に埋める。

けれど、公平性は本来、その月で清算しなければならないものではありません。今月かたよった分は、来月の優先順位で取り戻せばいい。「先月あなたに無理を頼んだから、来月はあなたが先に声のかかる側になる」。この持ち越しができれば、締め日の前に慌てて人を足す理由は消えます。需要のない時間帯に人を置かなくてよくなり、公平性がコストと喧嘩しなくなる。

Shiftory が勤務回数を累積で記録しているのは、この考え方に立っているからです。ここで積み上がる回数は、締め日ごとにリセットされる「今月分」ではなく、記録の始まりからずっと通算されてきた数です。締め日は区切りにすぎず、そこで公平の帳簿がゼロに戻ることはありません。だからこそ、これまで少なかった人ほど次のシフトで先に声がかかり、今月のかたよりを来月で取り返せる。公平を月ごとに清算するのではなく、時間をかけてならしていく——締め日前の駆け込みを、仕組みの側から不要にするための設計です。

本当に得をするのは、店長ではなくスタッフ

最後に、視点をスタッフの側へ移します。ここまでは「店長が手作業で公平を作るのは無理だ」という話でしたが、公平性の本当の価値は、店長がラクになることではありません。

スタッフから「なんで今月、私だけ入りが少ないんですか」と聞かれたとき、勘や記憶ではなく、積み上がった数字で答えられる。「先月あなたに多めに入ってもらったぶん、今月は他の人を優先している。累積で見ればちゃんとならされている」と、根拠を持って説明できる。この説明可能性こそが、シフトをめぐる不満を防ぎます。

公平性を見える化する画面は、スタッフを管理・監視するための道具ではありません。店長とスタッフのあいだに「納得」を生むための道具です。誰かが損をしていないと数字で示せること。それが、人が辞めない現場の土台になります。

まとめ

公平なシフトとは、全員を同じ回数にすることではありません。融通の利く人にしわ寄せをせず、それぞれの事情のなかで機会のかたよりを小さくし、全員が「自分のこれで納得できる」と思える状態のことです。

そして、その公平を締め日ごとに清算しようとすると、期末の人員投下という形で経営を痛めます。公平は、その月で無理にそろえるものではなく、累積で持ち越しながらならしていくもの。そう捉え直したとき、公平性はコストと戦う重荷ではなく、スタッフとの納得をつくる土台に変わります。数字で考えることは、冷たい話ではありません。むしろ、ひとりも損をさせないための、いちばん誠実な方法です。

よくあるご質問

公平なシフトとは何ですか?

全員を同じ回数にすることではありません。人によって入れる曜日・回数・担当できるポジションが違うため、機械的な均等割りはかえって不公平を生みます。公平なシフトとは、それぞれの事情をふまえたうえで、機会のかたよりが時間をかけてならされていく状態を指します。

全員を同じ回数にすれば公平ですか?

いいえ。融通が利く人ほど「調整弁」として使われやすく、同じ回数にそろえようとするほど、その人に無理が集中しがちです。回数の一致は公平の指標のひとつにすぎず、それだけを目標にすると別のかたよりが生まれます。

シフトの公平性はどうやって測れますか?

もっとも簡単なのは、勤務回数がいちばん多い人と少ない人の差(ばらつき)を見ることです。この差が大きいほど機会がかたよっているサインになります。Shiftory では累積の勤務回数と、その最多・最少の差をダッシュボードで確認できます。

公平性を重視すると人件費は上がりますか?

公平性を「締め日までに回数をそろえるノルマ」と考えると、期末に人を余分に入れてしまい、需要のない時間帯の人件費がふくらみます。公平性を月ごとにリセットせず、期をまたいで持ち越す形で考えれば、この駆け込みは必要なくなります。

締め日ごとに公平性をリセットする必要はありますか?

その必要はありません。今月かたよった分を来月の優先順位で取り戻せるように、累積で見るのが自然です。締め日で帳簿をゼロに戻す前提だからこそ、期末の無理な人員投下が起きます。